介護保険制度の仕組み|どのサイトよりも分かりやすく【介護保険制度とは?】に焦点を絞って解説。介護保険制度入門コラム

介護保険制度の仕組み|どのサイトよりも分かりやすく【介護保険制度とは?】に焦点を絞って解説。介護保険制度入門コラム
井ノ上剛(社労士・行政書士)

介護保険制度スタートから20年が経過しました。すでに日本の社会インフラを担う重要な制度となった介護保険制度。しかしその歴史はまだ浅く、介護事業所経営者にとっても理解が十分とは言えません。このコラムでは2000年にスタートした介護保険制度について、「介護保険事業経営者として最低限知っておきたい基礎情報」をご説明します。

☑このコラムの推奨対象者

〇介護保険事業の起業を計画している方
〇介護保険制度の基礎をもう一度整理したい方

☑このコラムの信頼性

タスクマン合同法務事務所は、このコラム執筆時点(令和3年6月)、介護障害福祉事業の開業支援実績が400社を越えました。介護保険制度を熟知した社会保険労務士・行政書士が執筆しています。安心してお読みください。

介護保険の目的を介護保険法第1条から考察

2000年に施行された介護保険。本稿執筆時点(2021年)ですでに20年以上の歳月が流れました。

このコラムでは介護保険制度をイチから理解したい方を対象に記載しますが、まず介護保険の仕組みを考える前提として、介護保険法の立法の趣旨から分析します。

以下に介護保険法第1条(目的)を掲載します。(条文は句読点が少なく読みにくいため、意訳分解しました)

介護保険法 第1条(目的)

介護保険法の目的は、「国民の保健医療の向上と福祉の増進」です。
加齢による心身の変化で病気になり、介護が必要となった場合を考えてみてください。
まず入浴排せつ食事の介護が必要ですね。
また体の機能を維持したり回復のための訓練看護療養管理医療も必要となります。
そのような方々が尊厳を保ち、個々の方々の持っている能力に応じた自立生活の支援
行政はそれを目的とした保健医療サービスと福祉サービスを行います。
冒頭で目的に掲げた「国民の保健医療の向上と福祉の増進」はこのことです。
それを公的保険でカバーします。国民の共同理念です。
法律では以上の内容を具体的に示します。

9つの文章に分解しましたが、実際の条文では読点がなく、1文です。どうして法律条文はこうも読みにくいのか・・・。

介護保険の保険者(運営主体となる義務者)は?

さて介護保険が「保険制度」であるからには、保険者と被保険者の考え方が重要となります。

保険者・・・保険料を集め、事が起こったときに保険サービスを実施する義務者
被保険者・・・保険料を納め、事が起こったときに保険サービスを受ける権利者

ここではまず保険者(サービス実施の義務者)から考察します。

介護保険の保険者は、市町村(特別区)です。以下市町村と呼び解説を続けます。

国は体制の確保について責任を負うのみです。都道府県は運営に対する援助の責任を負うのみです。つまり、介護保険制度のサービス提供は、最小行政単位である市町村が義務を負うのです。

介護保険の財政・費用負担の仕組み

次に介護保険制度を運営するに当たり、国・都道府県・市町村・被保険者がどのように費用負担しているかを確認しましょう。

☑居宅型介護サービスに関する費用負担

税金(50%) 保険料(50%)
国(25%)※ 都道府県(12.5%) 市町村(12.5%) 1号(21%) 2号(29%)

☑施設型介護サービスに関する費用負担

税金(50%) 保険料(50%)
国(20%)※ 都道府県(17.5%) 市町村(12.5%) 1号(21%) 2号(29%)

概要を捉えましょう。

半分が国民の税金です。国・都道府県・市町村がそれぞれの割合で財政(私たちの税金)から費用を支出します。

残り半分は40歳以上の人(被保険者)が納める保険料です。表にある1号、2号というのは、それぞれ次の人を指します。

第1号被保険者(65歳以上)
第2号被保険者(40歳以上65歳未満の医療保険加入者)

実際の制度を運営する市町村には財政的な体力に差があります。そこで、国が支出する部分(※)については、各5%の割合で調整交付金が含まれています。調整交付金によって、地域差を解消するのが狙いです。

介護保険の実施計画

超高齢社会がリアルタイムで進む介護保険分野では、日々の財政チェックと事業の計画を見直し続ける必要があります。

そこで、国(厚生労働大臣)が策定する基本指針に基づき、都道府県と市町村はそれぞれ次の頻度で計画を見直し続けることになっています。

都道府県・・・介護保険事業支援計画(3年ごと)
市町村・・・・介護保険事業計画(3年ごと)

3年ごとに中期計画を見直しながら、事業を運営するというフレキシブルな制度となっているわけです。制度ができて日が浅いことと、少子高齢化が急速なスピードで進んでいるのが理由ですね。

介護保険体制の関係図

介護保険体制を取り巻く関係者・組織を図にまとめましたので参考にしてください。

介護保険を取り巻く体制

ここで言う「介護事業者」として事業を開始するためには、管轄自治体から「指定」を受ける必要があります。指定申請のスケジュールについては、こちらのコラムをご参照ください。

新規介護事業の立ち上げ~起案・申請前・開設後で注意すべきポイント~
【指定申請までのスケジュール】訪問介護・訪問看護・デイサービス・障害者福祉施設の開業計画時に注意すべきポイント

要介護状態と要介護者

要介護状態とは、次のような状態を指します。法律の条文は、句読点が少なく読みにくいため、分解しています。

法第7条1項(要介護状態)

要介護状態とは日常生活(入浴・排せつ・食事)について、6ヶ月以上継続して常時介護が必要な状態を指す。
かつ、要介護状態区分に該当することが必要である。

そして、要介護者とは、

①要介護状態にある65歳以上の方
②40歳以上65歳未満の方の場合は、特定疾病に基づくこと

これらが定義です。特定疾病とは、回復の見込みのないがん、認知症、脳血管疾患などを指します。

要支援状態と要支援者

次に要支援状態についての法律の定義を確認します。

法第7条2項(要支援状態)

要支援状態とは、現状の軽減や悪化防止の必要性がある状態を指す。
かつ、要支援状態区分に該当することが必要である。

そして、要支援者とは、

①要支援状態にある65歳以上の方
②40歳以上65歳未満の方の場合は、特定疾病に基づくこと

以上が要介護者と要支援者の定義です。

要介護度・要支援度を分かりやすく一覧表にまとめると次のようになります。

区分 身体の状態
要介護5 生活全般について、全面的介助が必要。
要介護4 多くの行為で全面的な介助が必要。
要介護3 寝返りが出来ない。排泄、入浴、衣類脱着などで全面的介助が必要。
要介護2 自力では起き上がりが困難。
要介護1  立ち上がりや歩行が不安定。一部介助が必要。
要支援2 立ち上がりや歩行が不安定。一部介助が必要だが、改善余地がある。
要支援1 ほぼ自立生活ができるが、一部支援が必要

介護保険の被保険者

次に介護保険の被保険者について確認しましょう。被保険者とは、介護保険料を負担しつつ、本人が要介護・要支援者となった場合に介護関連サービスが受けられる方のことを言います。

介護保険の被保険者は2つに区分されます。

第1号被保険者(65歳以上)
1年間の老齢年金が18万円以上の場合、保険料が特別徴収(天引き)されます。
その他の場合は、普通徴収(自分で納付)です。

第2号被保険者(40歳以上65歳未満の医療保険加入者)
医療保険(健康保険料)に上乗せして徴収されます。

ちなみに大阪府健康保険協会の令和3年3月時点の保険料は、

健康保険・・・5.145%
介護保険・・・0.9%

です。(給料額面ではなく標準報酬に対して課されます)

会社勤めの現役世代の方は、一度お給料明細を確認されると、その負担金額が確認できます。

月給30万円(標準報酬も)の方の場合、毎月2700円の介護保険料を自己負担し、会社がその同額を合わせて納付しています。

要介護認定を申請しよう【介護認定審査会】

介護給付、予防給付(要支援者)を受けるためには、市町村の認定を受ける必要があります。介護保険の被保険者が自分で市町村に認定申請を提出します。

なお、次の方は申請を代行することが可能です。

・指定居宅介護支援事業者(ケアマネージャー)
・地域密着型介護老人福祉施設、介護保険施設
・地域包括センター
・社会保険労務士

要介護・要支援認定の手続きを図にすると次のようになります。

大阪の社会保険労務士_要介護認定

図のように、要介護認定の最終決定は市町村に置かれる介護認定審査会が担います。介護認定審査会の構成メンバーは、医療・介護などの有識者で構成され、市町村長が任命します。任期は原則2年であり、まさに地域の介護行政の要となる存在と言えます。

要介護(要支援)認定申請があった場合、市町村は申請から30日以内というタイトなスケジュールで結論を出す必要があります。また認定結果は申請日に遡って効力を生じます。

介護分野ではこのように迅速かつ、フレキシブルな行政対応が求められているのです。

要介護認定の有効期間は、初回認定時は6ヶ月間のみです。更新申請を行った場合、1年間の有効期限に切り替わります。極力、介護をサポートする家族の負担を軽減する措置が取られているのです。

介護保険審査会とは何か?

次に介護行政に対する不服があった場合の対処方法を検討します。

介護保険制度には、審査請求制度が設けられています。最も関心の高いのは、要介護(要支援)認定申請に対する決定処分でしょう。これらの決定処分に不服がある場合、都道府県に設置されている介護保険審査会に審査請求が可能です。

先に登場した介護認定審査会とは似て非なる組織ですので注意が必要ですね。

介護保険審査会・・・都道府県に設置・・・不服事項の審査請求
介護認定審査会・・・市町村に設置・・・要介護(要支援)の認定

保険給付の種類

ここでは介護保険における14種類の介護給付のうち、9つを抜粋してご紹介します。

※印のつく5つの介護給付には、頭に「特例」の2文字が付く介護給付が、これとは別に存在します。この「特例・・・」は要介護認定を受ける日以前に受けた介護サービスも、保険の対象として認める例外を示します。これら5つを合わせると、合計14種類の介護給付になります。

介護給付 支援の要件 サービス例 支給額
居宅介護サービス費※ 都道府県知事の指定を受けた指定居宅サービス事業者から訪問介護・通所介護などのサービスを受けたとき 訪問介護、通所介護(デイサービス)、リハビリ、福祉用具レンタル 90%
地域密着型 介護サービス費※ 市町村長の指定を受けた指定地域密着型サービス事業者から定期巡回、臨時対応型訪問介護看護などのサービスを受けたとき 小規模多機能型居宅介護、夜間対応型訪問介護、認知症対応型通所介護 90%
居宅介護福祉用具購入費 入浴・排せつ用の福祉用具を購入したとき 腰掛便座、簡易浴槽、入浴用いす 90%
居宅介護住宅改修費 手すりの取り付けなどの住宅改修を行ったとき 手すり、段差解消、すべり防止、洋式便座 90%
居宅介護サービス計画費※ 都道府県知事の指定を受けた指定居宅介護支援事業者(ケアマネージャー)から居宅サービス計画などの作成を受けたとき ケアマネージャーが作成するケアプラン 100%
施設介護サービス費※ 特別養護老人ホームなどに入所し、介護サービスを受けたとき 特別養護老人ホーム、介護老人保健施設(老健) 90%
高額介護サービス費 介護サービスを受けたときに支払った自己負担額が高額であるとき 実際に利用した介護サービス 一定超
高額医療合算介護サービス費 介護サービスおよび医療を受けたときに支払った自己負担額が高額であるとき 実際に利用した介護&医療サービス 一定超
特定入居者介護サービス費※ 低所得者が施設に入居し、支払った食費・居住費が自己負担限度額を超えているとき 特別養護老人ホーム、デイサービスなどの居住費・食費 自己
負担
限度超

地域支援事業

介護保険制度は、要介護・要支援の認定を受けた特定の個人に対する介護保険給付が中心です。介護保険給付とは、自己負担割合(1割)の残り9割を給付するという仕組みのことです。

この介護保険給付以外にも、介護保険法では地域支援事業というものが定められています。地域支援事業とは、要介護・要支援認定を受けているかどうかに関わらず、地域住民全体を対象と介護要望を中心としたサービスです。

介護保険制度が財政的な健全性を失いつつある今日、この地域支援事業が今後の介護保険制度の存続を握る鍵であると言えます。

介護保険制度の内容と対象

種類 内容 対象
介護給付 国の法律による保険給付 認定を受けた要介護者・要支援者のみ
地域支援事業 市町村の独自事業 地域(その市町村)に住む住民全体

地域包括ケアシステム

地域支援事業の詳細を考える前に、その土台となる地域包括ケアシステムを考察しましょう。平成25年3月地域包括ケア研究会報告によると、地域包括ケアシステムの意義は以下の通りです。

地域包括ケアシステムの意義

①今後迎える超高齢社会では医療・介護面の財政が悪化の一途を辿る。なるべく、川上(病院)から川下(介護・健康)への適切な体制を作る必要がある。

②最終的には、自宅に居住しつつ、30分以内に医療・介護・生活支援・介護予防を受けることが出来る体制が望ましい。

③そのためには、地域(具体的には中学校区)単位でこの支援体制を築く必要があるが、医療は都道府県、介護は市町村が管理しており、協力関係がなかなか進まない現状がある。

④そこで国が主導し、医療・介護の分野で都道府県と市町村が協力して地域のサポート体制を作る必要がある。

以上が地域包括ケアシステムの全容です。

地域支援事業の内容

では具体的に地域支援事業の内容を考察していきましょう。地域支援事業は主に次の3つから成り立っています。

地域支援事業 内容
介護予防事業 65歳以上の一般高齢者に対する健康チェック、体操、注意喚起資料の配布など
介護予防・日常生活支援総合事業 地域サロンの開催、見守り、安否確認、外出支援、買い物、調理、掃除など
包括的支援事業 各市町村に地域支援事業の拠点となる、地域包括支援センターを置き運営する。

中には成年後見制度の利用相談などを行っている市町村もあります。

また、平成27年介護保険法改正により、地域支援事業は介護保険制度の中で次の位置づけに変わりました。(表の中の水色の部分が、新しい地域支援事業です。

 

改正前 改正後
介護給付(要介護1~5) 変更なし
介護予防 訪問看護・福祉用具貸与 変更なし
訪問介護・通所介護 介護予防・日常生活支援総合事業
介護予防事業
包括支援事業 一部充実
任意事業 変更なし

なお、地域支援事業はあくまでも介護保険制度の中の仕組みであるため、一定割合の税金と介護保険料を元に運営されていることも申し添えます。

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【この記事の執筆・監修者】

井ノ上 剛(いのうえ ごう)
※ご契約がない段階での記事に関するご質問には応対できかねます。
 ご了承お願い致します。

◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士・行政書士
奈良県橿原市議会議員
◆介護福祉士実務者研修修了
タスクマン合同法務事務所 代表
 〒542-0066 大阪市中央区瓦屋町3-7-3イースマイルビル
 (電話)0120-60-60-60 
     06-7739-2538