就労継続支援A型と特定求職者雇用開発助成金-A型事業所で特開金(助成金)は受給できるか?

就労継続支援A型と特定求職者雇用開発助成金-A型事業所で特開金(助成金)は受給できるか?
井ノ上剛(社労士・行政書士)

障害者福祉作業所の一種、就労継続支援A型。障害者を雇用契約で受け入れるのが最大の特徴です。この就労継続支援A型で、障害者雇用の代表的助成金である、特定求職者雇用開発助成金は受給できるの?このコラムでは就労継続支援A型事業所で受給できる助成金、受給できない助成金について、社会保険労務士が詳しく解説します。

このコラムの推奨対象者

・就労継続支援A型での特定求職者雇用開発助成金受給ルールを理解したい方
・就労継続支援A型で受給できない雇用助成金の種類 を理解したい方

コラムの信頼性

タスクマン合同法務事務所は、介護障害福祉事業の設立と運営支援に専門特化した合同法務事務所です。このコラムのリライト(更新)時である、令和3年9月時点、これまでに設立支援した介護障害福祉事業件数が、累積400社を突破。日々の開業相談の中で、就労継続支援A型事業の助成金申請についても数多くご対応しています。安心してお読み下さい。

就労継続支援A型、特定求職者雇用開発助成金とは?

冒頭でこのコラムで使用する用語の解説から行います。

就労継続支援A型とは?

就労継続支援A型は、一般事業所での就労が困難な障害者と雇用契約を結んで就労のサポートを行う福祉事業です。労働者である障害者の通所時間等に応じて、事業所に福祉給付費が支給されます。令和3年報酬改定については次の3部作でご説明していますので、併せてお読み下さい。

就労継続支援A型 令和3年報酬改定 3部作

介護保険法改正編
就労継続支援A型スコア評価3部作その壱「労働時間、生産活動、地域連携活動」
就労継続支援A型スコア評価3部作その①「労働時間、生産活動、地域連携活動」を徹底解説
介護保険法改正編
就労継続支援A型スコア評価3部作その弐「多様な働き方」では8項目中5項目選択して評価
就労継続支援A型スコア評価3部作その②「多様な働き方」では8項目中5項目選択して評価
介護保険法改正編
就労継続支援A型スコア評価3部作その参「支援力向上のための取組」では8項目中5項目選択し評価
就労継続支援A型スコア評価3部作その③「支援力向上のための取組」では8項目中5項目選択して評価

指定(営業許可のこと)権限は都道府県知事または中核市等が持ちます。障害者と雇用契約を結ばないB型事業所に対して、A型事業所では雇用契約を締結することが最大の特徴です。

このことによりA型事業所の障害者は、労働社会保険法令における労働者の扱いとなり、このコラムで取り扱う、雇用関連の助成金の対象者となるか否か、との問題が生じるのです。

特定求職者雇用開発助成金とは?

特定求職者雇用開発助成金は、高年齢者や障害者等の就職困難者をハローワーク等の紹介により、継続して雇用する労働者(長期雇用)として雇い入れる事業主に対して支給されます。

障害者の部分に限定すると、下表の通りとります。(中小企業の場合)

週労働時間 対象労働者 支給額
30時間以上 重度障害者等を除く身体・知的障害者 120万円
重度障害者等 240万円
20時間以上 30時間未満 重度障害者等を含む身体・知的・精神障害者 80万円

(特定就職困難者コース)

ここで問題となるのが、

A型事業所の本来の業務目的と、特定求職者雇用開発助成金の助成目的が重複するのではないか?

以上の点です。特定求職者雇用開発助成金は、就職が困難な人(高齢者、障害者、母子家庭の母等)の採用を行う事業所へ助成金を支給する制度です。

一方のA型事業所は、一般就労が困難な障害者を雇用契約に基づいて受け入れる事業所に、障害福祉サービス費を支給する制度です。

つまり、A型事業所に特定求職者雇用開発助成金を支給すると公費の二重支給が生じるのではないか、との疑念が生じるわけです。

この問題について、平成29年5月1日確定的な変更が行われているので、下記で詳しく解説します。

就労継続支援A型における特定求職者雇用開発助成金の受給ルール

この問題を理解する前に、重要なキーワードである「暫定支給決定」について解説します。

暫定支給決定とは?

暫定支給決定とは、障害者が訓練型の福祉サービスを利用するにあたり、

「このサービスを利用することが適しているのか」

を行政が判断するための期間です。2カ月以内の範囲で設定され、受給者証と決定通知に記載されます。対象となる訓練型の福祉サービスは以下の通りです。

・自立訓練(機能訓練・生活訓練)
・就労移行支援
・就労継続支援A型

下記いずれかに該当すれば、例外的に暫定支給決定を省略することができます。

暫定支給決定省略のケース

・利用者の転居によるA型事業所変更に伴い、前後のA型事業所でアセスメント情報が引き継がれている場合
・利用者が就労移行支援からA型事業所に移り、前後の事業所でアセスメント情報が引き継がれている場合

平成29年4月30日以前は?

暫定支給決定は、いわゆる「試用期間」に類する位置づけであったため、A型事業利用開始時には特定求職者雇用開発助成金の支給条件である、「継続して雇用する労働者」とはみなされず、支給対象となりませんでした。

平成29年5月1日以降のA型事業所における特定求職者雇用開発助成金の取り扱い

平成29年5月以降は、たとえ暫定支給決定を受けた障害者を雇い入れる場合であっても、次の条件を満たす場合に受給可能となりました。(平成29年4月30日以前に雇い入れた利用者のうち、暫定支給決定を受けていた場合は対象外です)

・期間の定めの内容雇用契約で雇い入れること
・有期雇用契約であっても、契約が自動的に更新されるか、本人意思により更新されること

対象となる利用者の離職割合が25%以上の場合は不支給となります。

これは特定求職者雇用開発助成金受給目的で、A型利用の短期離職を繰り返す悪質事業所を排除するための強化措置であると言えます。

なお同一法人内で就労移行支援事業所または就労継続支援B型事業所から、A型事業所へ移動して雇用される場合は、雇用予約であると考えられ、支給対象とならない旨、理解しておきましょう。

公共職業安定所でA型利用者を募集する場合の留意事項

このような制度変更の中、厚労省はA型事業所が公共職業安定所(ハローワーク)で労働者たる障害者を募集するにあたり、以下の内容の通達を発しています。

通達内容

1.就労継続支援A型の許可証(指定通知書)を提出すること
2.A型事業に応募する労働者たる障害者を他事業へ職務転換させないこと
3.暫定支給期間中、終了後それぞれの労働条件を明記すること
4.A型利用の趣旨にかんがみ、年齢不問とすること
5.求人条件には「居住する自治体による支給決定が必要」と記載すること

就労継続支援A型における他の雇用助成金の受給ルール

この項では就労継続支援A型事業所における、代表的な雇用助成金との関連性を紹介します。

就労継続支援A型事業所と雇用助成金の関連一覧表

制度名 対象・内容 可否 備考
特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)   高年齢者や障害者等の就職困難者をハローワーク等の紹介により、継続して雇用する労働者(雇用保険の一般被保険者)として雇い入れる事業主に対して助成   
特定求職者雇用開発助成金(障害者初回雇用コース) 障害者雇用の経験のない中小企業が障害者を初めて雇用し、当該雇入れによって法定雇用率を達成する場合に助成    × A型事業所の
本来業務と近いため
障害者雇用調整金・報奨金 障害者法定雇用率を達成している企業に助成  
トライアル雇用助成金(障害者トライアルコース、障害者短時間トライアルコース) ハローワーク等の紹介により、就職困難な障害者を一定期間雇用し、その適性や業務遂行可能性を見極め、求職者及び求人者の相互理解を促進雇用機会の創出を図る企業に助成 × A型事業所の
本来業務と近いため
職場適応訓練費 実際の職場で作業訓練を行い、作業環境に適応する目的で実施。訓練終了後は、その訓練を行った事業所に雇用されることを前提に助成 一部個別判断
障害者作業施設設置等助成金、障害者福祉施設設置等助成金 障害者が障害を克服し作業を容易に行えるよう配慮された施設、福利厚生施設の設置を行う場合にその費用の一部を助成 × A型事業所の
本来業務と近いため
重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金 重度身体障害者、知的障害者または精神障害者を多数継続して雇用し、事業施設等の設置または整備を行う場合に、その費用の一部を助成 個別判断  
重度障害者等通勤対策助成金 障害者を雇用する事業主、事業主が加入している団体が、これらの障害者の通勤を容易にするための措置を行う場合に、その費用の一部を助成 一部個別判断
障害者介助等助成金、重度障害者等通勤対策助成金(通勤援助者の委嘱助成金) 障害者を雇用する事業主が、適切な雇用管理のために必要な介助等の措置を実施する場合に、その費用の一部を助成 × A型事業所の
本来業務と近いため
障害者雇用安定助成金(障害者職場定着支援コース) 障害特性に応じた雇用管理・雇用形態の見直しや柔軟な働き方の工夫等の措置を講じる事業主に対して助成 × A型事業所の
本来業務と近いため
障害者雇用安定助成金(障害者職場適応援助コース) 職場適応・定着に特に課題を抱える障害者に対して、職場適応援助者による支援を実施する事業主に対して助成 × A型事業所の
本来業務と近いため
障害者雇用安定助成金(中小企業障害者多数雇用施設設置等コース) 労働者数300人以下の事業主が、障害者の雇入れに係る計画を作成し、当該計画に基づき障害者を10人以上雇用するとともに、障害者の雇入れに必要な事業所の施設・設備等の設置・整備をした場合に、当該施設・設備等の設置等に要する費用に対して助成 × A型事業所の
本来業務と近いため
人材開発支援助成金(障害者職業能力開発コース)  障害者の職業に必要な能力を開発、向上させるため、一定の教育訓練を継続的に実施する施設の設置・運営を行う事業主又は事業主団体に対してその費用を一部助成 × A型事業所の
本来業務と近いため

このコラムのまとめ

以上が就労継続支援A型と雇用助成金との関連です。

お読みいただけると分かる通り、A型事業の本来業務である、障害者の就労支援と目的を一にする雇用助成金は支給対象外となっています。

就労継続支援A型事業を設立開業する場合、予めどの助成金が対象、または対象外となるかを調査しておきましょう。

就労継続支援A型の設立開業をお考えの際は、ぜひ当事務所の無料相談のご利用をお勧めします。

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【この記事の執筆・監修者】

井ノ上 剛(いのうえ ごう)
※ご契約がない段階での記事に関するご質問には応対できかねます。
 ご了承お願い致します。

◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士・行政書士
奈良県橿原市議会議員
◆介護福祉士実務者研修修了
タスクマン合同法務事務所 代表
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